ロリアンに到着したときと、その地を去るときでは、世界がまるで違ってしまっていた。使命感に後押しされ、身勝手な行動も控えて過ごしたそれまでとは、もう風の感じ方すら変わってしまった。一時でもそれを忘れて、休息の日々を過ごしてしまったから。そして、彼が多数の中のひとりではなくなってしまったからだ。裂け谷で一度ならず身体を重ねたが、それはあくまでも戯れに過ぎなかった。実際、再会を喜び別れを惜しむという名目でエルフとも関わりをもっていたのだから。
しかし、ロスロリアンで互いの負担にならない程度に身体を合わせるうちに、知らずそこで少しずつ変化が起こっていたのだろう。ひとつの肉体と馴染み楽しむことを覚えると、五感の全てが狂いだす。結果的に自分を滅ぼすか、さらに輝いた日々を送るかそれは運命次第だ。
水の匂いのする川縁の木々の合間に、仲間の目を逃れて交わるふたりの姿があった。ボロミアの上着の赤い色とアラゴルンの剥き出しにされた下半身の肌の色が、鮮やかに映える。彼らの足元には集めた薪が投げ出されていた。
「ボ・・・ミア・・・始末が面倒だ・・・っ・・・中で出すな」
切羽詰ったアラゴルンの囁きに、更に煽られたボロミアは彼の肉体に己を強く擦りつけた。何も言わず、ただ食いしばった口元から漏れる荒い呻きと呼吸が背後からアラゴルンを追い上げる。
「ボロミアッ・・・くぅ・・・」
縋りついた樹に手のひらを擦られた。ざらついた木肌が突き上げてくる彼の力強さを感じさせる。
ひときわ強い突きに、手がずるりと滑った。慌てたが、彼が強く抱きしめていて、体勢は崩れなかった。荒い息が次第に整っていくのを感じながら、がくりと座り込む。目の前の木に白く飛び散っているのを気恥ずかしく思う。
ボロミアはずるい、とふと考えた。彼は呼吸に肩を上下させながら、懐から出した手拭いで始末するとそそくさと下履きを直している。相手の中に吐き出してしまえば、あとは何事もなかったようにすっきりした顔をしていればいいだけだ。こっちは恥ずかしい思いで後始末もしなければならないのに。
アラゴルンは左足にだけ纏わりついているズボンをするりと脱いでしまった。最中には危険だからこそすぐに服を着けられるようにしているが、今は不必要に汚したくはなかった。さらした太腿に上着の裾が触れる。
黙ったまま川に足を浸ける。ズボンを持って所在なさげにボロミアが寄ってきたが、それを無視してさらに腰を流れに沈めると、白濁が微かに広がった。
「すまない、アラゴルン・・・」
大きな男が叱られた子供のように身を縮め、手にしたズボンをくるくると丸めながら呟いた。
「だめなんだ。その・・・本能が」
中で絞り出されて、たっぷりと注ぎ込むまで、満足できない。そう告げたボロミアをアラゴルンは睨む。強く擦ったので手はひりひりするし、腰はがくがくで頼りないし、おまけに考えられないほどよかった。
鼓動のリズムも呼吸も、心も乱されて苛立ちが募る。
「アラゴルン・・・?」
不安そうに見つめてくるボロミアに、アラゴルンは思わず吹き出した。
「まったく、あんたは・・・」
呆れての溜め息まじりに苦笑して、肩をすくめる。
「執政家は世継ぎには困らんな」
言いながら、アラゴルンは自分の顔がひきつるのを感じていた。もちろん、相手には悟らせたりはしないが。
「何の話だ」
「言葉の通りさ。中で出さなきゃ、満足できないんだろう?」
ぱっと赤く染まったボロミアの顔を見れば少しは気分が和らぐ。
「そ、それはそうなんだが・・・しかし世継ぎは期待できないと・・・」
「何故?」
と今度はアラゴルンが尋ねる番だった。
「中は中でも、あなたの中じゃな・・・」
決まりが悪そうに言ったボロミアの顔を見上げて、アラゴルンは脱力した。つまらない感傷に浸っている間などない。
滑稽だ。次期執政は世継ぎの産めない、ただかつての王の血を引いているだけの男を伴侶に選ぶらしい。
「はっはっは、最高だ、ボロミア。あんたはゴンドールを滅ぼす気か」
これはあんただけのものになってもいい、と言っているのと同じことだぞ、ボロミア。
「まぁいい。世継ぎは弟君に任せることにしよう」
気付きはしまい。
アラゴルンは話を打ち切って、ボロミアに寄るように指示した。
「罰として、洗ってくれ。・・・洗うだけだぞ?」
浅瀬で彼を出迎えると、抱き寄せながらその肩口に隠れて、アラゴルンはそっと微笑んだ。
水月綾祢 ■続きとか言いつつ、全然関係ありません。チャタレイなふたり(笑)どうなんでしょうか、こういうの。
書いているうちに同じアラゴルン、ボロミアなはずが、変わってきてしまっている感じがします。
■自分で書いててなんですが、らぶらぶですなぁ・・・。一応ロリアンを出たばかりで、まだ休暇気分が抜けていない感じでお願いします(笑)ロリアンに着いたばかりのときは指輪で頭いっぱいだったボロミアもかの地で少し癒されて、幸せいっぱいな日々。ここからパレス・ガレンに近付くにつれ、また指輪に侵されて痛々しいほどになってしまうのですが、それはまた別なお話で。